YAKUSHIMA ZINE
#山尾三省の詩を歩く 6月
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#山尾三省の詩を歩く 6月

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  雨の歌
 
雨降るは よろし
ささやぶのささの葉から
おびただしく滴(しずく)の流れおちるのは よろし
川音高きは よろし

心沈み
石のように濡れて そこに在るのは楽しい
心捨てられ
芋(いも)の葉のように 畑に繁るのは楽しい
雨降るは よろし
古くなった家に雨洩りがして
洗面器でそれを受けるのも またよろし
洗濯物乾かぬは けれどもにくし
雨降るは よろし

濡れそぼった石となって
また 芋(いも)の葉ともなって
今日(こんにち)の雨を受けていると
遠くで
姉妹なるあじさいの花が 咲(わら)っているよ

山尾三省『五月の風』(野草社)

 家の裏庭に三省さんが植えた蕃石榴(バンジロウ)の木がある。昨日、小さい黄色がかった白い花がひとつ咲いているのを見つけたが、今日は10個以上の花が咲き出している。起きた時は曇っていた空から降り出して、いよいよ本降りとなった雨の中で、たくさんの雄蕊をひろげてぽしゃぽしゃと気持ちよさそうに咲いている。雄蕊の真ん中には透明な薄黄緑色の雌蕊が輝いている。静かな雨の日である。

 東北地方に生れ育った私には屋久島の雨は多すぎて、なかなか「よろし」とは思えないのだが、二日ばかり好天の続いた後の今日のような雨の日の静かさはホッと心を落ち着かせてくれる。
 三省さんには少々薄暗い雨の日の方が心落ち着くようだった。
 また、上下の雨合羽を来て、外へ出て行き、ざんざんと雨を受けながら、作業をするのも好きなことのひとつだった。ガマガエルや石のように、合羽など着けずに、肌に直接雨を受けられれば、もっといいのだけれどと言いそうな雰囲気だった。

 それにしても雨漏りには悩まされた。
雨漏りで腐った畳にきのこが生えるのだ。もちろん食べられるわけはないものだし、いくら私でも笑ってばかりはいられなかった。が、三省さんが生きている間は雨漏りから解放されることはなかった。
 有難いことに今は雨漏りはしていない。
ある年の梅雨時期、雨漏りはするし、洗濯物の乾かぬ日が何日も続いたある日、三省さんが「今日も雨か…ひどいなあ。もう何日降っているんだ」とぼやいたことがあった。
 その時、子どものひとりが、
「お父さん、この間、お客さんが来てた時、雨の日が好きって言ってたじゃないか」
と言った。
 三省さんが、
「そりゃ、そうだが、洗濯物が乾かないし……」
と苦笑いしていたのを思い出す。
 梅雨のこの時期になると、ガマガエルとか沢蟹とかになって過ごせばいいと言っていた。

 私はなかなかガマガエルや沢蟹になることはできないので、山に咲くヤマクチナシ、ヤクシマコンテリギ、リュウキュウテイカカズラ、コンロンカ、クマノミズキなどの白い花たちを眺めながら、雨の季節を凌いでいる。
…………
山尾 春美(やまお はるみ)

1956年山形県生まれ。1979年神奈川県の特別支援学校に勤務。子ども達と10年間遊ぶ。1989年山尾三省と結婚、屋久島へ移住。雨の多さに驚きつつ、自然生活を営み、3人の子どもを育てる。2000年から2016年まで屋久島の特別支援学校訪問教育を担当、同時に「屋久の子文庫」を再開し、子ども達に選りすぐりの本を手渡すことに携わる。2001年の三省の死後、エッセイや短歌などに取り組む。三省との共著に『森の時間海の時間』『屋久島だより』(無明舎出版)がある。

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フルーツ、お魚、野菜に野鳥……。屋久島在住のさまざまな書き手が、日常の風景を交えながら、島の四季を発信するローカルマガジン。このメディアは、THE HOTEL YAKUSHIMAの委託を受け、一湊珈琲編集室が運営しています。